災害対策移動薬局車両モバイルファーマシー（MP）は、大規模災害時に車内で調剤を行い被災者に医薬品を供給するため東日本大震災の翌年に宮城県で開発され、2017年に岐阜薬科大学では全国の大学として初めてMPを導入しました。熊本地震で有用性が確認されたMPは全国で約20台が配備されていますが、なかなか普及が進まないのが現状です。
　岐阜薬科大学の私たちの研究グループでは、MPの普及が進まない理由の一つとして平時に使用できないからという全国調査の結果を報告してきました。「薬剤師法」の規制により薬剤師は原則として薬局以外の場所で調剤できないことや「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」などの規制によりMPが薬局として許可されないことから、MPは平時の医療には利用できませんでした。

　岐阜県山県市の北伊自良地区では、公設の伊自良北診療所で週2回、1回1時間程度の出張診療が行われていますが、近隣に処方せん調剤を行う薬局が存在しないため、治療に必要な医薬品は、医師が手持ちの限られた医薬品を患者さんに提供しています。このような地域では、安全で効果的な薬物療法を行うための医師と薬剤師によるダブルチェック、薬剤師による効率的な医薬品管理、在庫にとらわれない処方といった医薬分業のメリットを住民が享受することが困難です。また、医師の負担も大きなものとなっています。
　岐阜薬科大学では、MPの医療過疎地での有用性を明らかにすることを目的として、MPによる無薬局地域での出張調剤の実証実験を、産業競争力強化法に基づく新技術等実証制度（規制のサンドボックス制度）による実証計画として国に申請していましたが、8月30日付で厚生労働大臣により特例的に認定され、2022年10月より半年間、山県市北伊自良地区において国内で初めてMPを用いた平時の処方せん調剤を岐阜薬科大学の実務家教員が実施します。
　MPが平時においても医療過疎地などで活用できるようになれば、全国での普及も進み、結果的に災害の備えとなることが期待されます。

【文責：林　秀樹（岐阜薬科大学 地域医療実践薬学研究室 教授）】