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month21 大学の産学連携と実務家人材の役割


 大学の研究成果を社会に実装し、新産業や新事業を生み出す「産学連携」は、日本経済の持続的成長に不可欠である。しかし、その推進には研究者だけでなく、民間企業などで実務を経験した人材の役割が重要だ。研究成果を商業化するには、発明評価や特許戦略に加え、マーケティング、資金調達、組織運営など幅広い知識と経験が求められるからだ。

 米国では、大学・企業・スタートアップの人材が頻繁に行き来している。スタンフォード大学やMITの産学連携部門では、企業経験を持つ人材が大学に入り込み、発明の発掘からライセンス、ベンチャー創出までを推進している。逆に大学で培った知識やネットワークを持つ人材が企業やスタートアップに移り、再び大学に戻るという循環もある。こうした人材の流動性こそが、イノベーション・エコシステムの活力を支えている。また、地元企業の人材が大学発ベンチャーのメンターとなり、有望な案件にはエンジェル投資家として資金を投じる事例も多い。人的支援と資金支援が一体となり、ベンチャーの成長を加速させている。

 一方、日本では人材の流動性が乏しく、大学の産学連携本部に定年退職後の企業OBが天下り的に出向するケースが少なくない。企業経験は貴重だが、大学文化や研究者との関係構築に不慣れなままでは成果につながりにくい。企業文化をそのまま持ち込むことで摩擦が生じ、特許出願は増えても商業化には結びつかない課題が繰り返されてきた。そこで必要なのは、民間企業から大学に人材を送り込む際に一定期間のトレーニングを設けることだ。大学MBA(経営学大学院)やTEEP(進化型実務家教員養成プログラム)のような教育組織がその役割を果たせる可能性がある。こうした仕組みは人材育成にとどまらず、大学と企業の間で人材が往来できる環境を広げる「人材流動性の促進」に直結する。さらに、研究成果の商業化を後押しするためには、POCファンドや大学VCを拡充する「大学発ベンチャー支援制度の強化」も不可欠だ。

 大学の研究成果から新しいビジネスを生み出すことは、日本経済の発展にとって待ったなしである。研究者の知を社会に橋渡しする「翻訳者」として、実務家人材の育成と活用を本格化させることが、今後の産学連携の成否を決める鍵となるだろう。

【文責:名古屋市立大学経済学研究科 教授 坂井貴行】
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