month20 AIと判断の心理:考えることを手放さないために

近年、生成AIをはじめとする人工知能が急速に社会に浸透してきました。文章の作成や計画の立案、さらにはアイデア出しといった「考える」領域まで支援するようになり、私たちの仕事や学習のあり方は大きく変わりつつあります。便利さを実感する一方で、「人間は考える力を失ってしまうのではないか」という不安が語られることもあります。こうした現象には、社会心理学の観点から理解できる側面があります。
まず、人間は日常生活の中で「認知的な負担を減らしたい」という傾向を持っています。考えることにはエネルギーが必要です。AIはその負担を軽減してくれる存在であり、私たちは自然と頼りやすくなります。しかし、あまりに依存しすぎると、自分で考える前に「AIに聞けばいい」と判断し、思考のプロセスが省略されていく可能性があります。これは「オートメーション・バイアス」と呼ばれ、機械の判断を無批判に受け入れやすくなる傾向を示しています。
また、AIは私たちの「確証バイアス」を強める危険性もあります。確証バイアスとは、自分にとって都合の良い情報ばかりを集め、異なる意見を遠ざけてしまう心理です。AIは検索履歴や発言傾向に応じて、私たちが好む答えを提示しやすくなります。その結果、「自分の考えは正しい」という確信が過度に強まり、対話や理解の幅が狭まることがあります。
では、AIとどう向き合えばよいのでしょうか。重要なのは、AIを「答えを与える存在」ではなく、「考えるきっかけを与えるパートナー」として使う姿勢です。AIが示した案に対して「なぜそうなのか」「自分はどう感じるのか」と一度立ち止まることが、思考の主導権を人間側に留めることにつながります。
さらに、AIの助言を受ける「前に」まず自分の考えを持つことも効果的だとされています。心理学の研究では、先に自分の判断を形成した人の方が、AIが誤った助言をした場合でも、その影響を受けにくいことが示されています。最初に自分の視点を確保しておくことで、AIをパートナーとして活用しながらも、判断の主体性を保つことができるのです。
私たちはすでに、日常の中でAIとともに暮らしています。たとえば、地図アプリや検索エンジンといった身近な技術も、私たちの判断の一部を支えています。だからこそ、AIの活用が進むいま、「考えることの意味」を改めて問い直す必要があります。AIはあくまでも道具であり、決断する主体は私たち自身です。便利さに身をゆだねすぎることなく、自らの思考を育て続ける姿勢こそ、これからの時代に求められる知性のあり方なのだと思います。
【文責:中京大学心理学研究科 教授 神谷栄治】
まず、人間は日常生活の中で「認知的な負担を減らしたい」という傾向を持っています。考えることにはエネルギーが必要です。AIはその負担を軽減してくれる存在であり、私たちは自然と頼りやすくなります。しかし、あまりに依存しすぎると、自分で考える前に「AIに聞けばいい」と判断し、思考のプロセスが省略されていく可能性があります。これは「オートメーション・バイアス」と呼ばれ、機械の判断を無批判に受け入れやすくなる傾向を示しています。
また、AIは私たちの「確証バイアス」を強める危険性もあります。確証バイアスとは、自分にとって都合の良い情報ばかりを集め、異なる意見を遠ざけてしまう心理です。AIは検索履歴や発言傾向に応じて、私たちが好む答えを提示しやすくなります。その結果、「自分の考えは正しい」という確信が過度に強まり、対話や理解の幅が狭まることがあります。
では、AIとどう向き合えばよいのでしょうか。重要なのは、AIを「答えを与える存在」ではなく、「考えるきっかけを与えるパートナー」として使う姿勢です。AIが示した案に対して「なぜそうなのか」「自分はどう感じるのか」と一度立ち止まることが、思考の主導権を人間側に留めることにつながります。
さらに、AIの助言を受ける「前に」まず自分の考えを持つことも効果的だとされています。心理学の研究では、先に自分の判断を形成した人の方が、AIが誤った助言をした場合でも、その影響を受けにくいことが示されています。最初に自分の視点を確保しておくことで、AIをパートナーとして活用しながらも、判断の主体性を保つことができるのです。
私たちはすでに、日常の中でAIとともに暮らしています。たとえば、地図アプリや検索エンジンといった身近な技術も、私たちの判断の一部を支えています。だからこそ、AIの活用が進むいま、「考えることの意味」を改めて問い直す必要があります。AIはあくまでも道具であり、決断する主体は私たち自身です。便利さに身をゆだねすぎることなく、自らの思考を育て続ける姿勢こそ、これからの時代に求められる知性のあり方なのだと思います。
【文責:中京大学心理学研究科 教授 神谷栄治】