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month3 未知の出来事に対応する


 人生とは予期せぬ出来事が起こるものである。このことは新型コロナウイルス感染症の流行でも経験したばかりである。このウイルスの性質がよくわからない頃には、公衆トイレのハンドドライヤーが使用禁止となり、便器にフタをしてからフラッシュせよと、前後左右に貼り紙がされたりもした。一方で、症状があるのに検査を受けずに「自分は陽性と診断されていないから」と平然と出歩く人も現れた。
 未知の健康問題への対応は過去にも起こっている。福島の原発事故で、圏内の住民に配布された安定ヨウ素剤の取り扱いをめぐる混乱がそうである。当時対応にあたった自治体保健師の証言が残されている1)が、「服用するかしないかは自己判断」といわれて混乱する住民にどのように対応したらよいか、情報の乏しい中、手探りで対応をしたという。頭が下がる。

 このような未知の出来事に実務家教員はどのように対処すべきか。それまでの経験や実務で得られた知見を基に、より的確なアドバイスを期待されているプレッシャーを感じる。
 海外では看護師が現場で最新知識を参照するための携帯アプリもある。米国unbound medicine社の“Disaster Nursing”は、災害などの緊急時に救護活動にあたる看護師が、現場で最新保健医療知識を確認できる携帯アプリである。地震、大規模火災、テロ、航空機事故など原因別対応手順、症状別応急処置、疾患別対処方法など、専門的な最新知識がいつでも確認できる。残念ながら使用言語が英語のみであり、環境や法制度が異なるため、そのまま日本の災害でこれを使用するのは難しい。
 アプリの代わりに実務家教員の力となるのは、実務で培ったネットワークであろう。専門家との個人的なつながりということではなく、組織的なつながりがこの時に役に立つと考えている。
 例えば、新型コロナウイルス感染症に関しては、私は以前から感染症ケア研究者として登録していた国際学術ネットワークが役に立った。流行初期から頻繁に研修を開催しており、そこで最新の知見を得ることができた。欧州標準時に合わせて、いつも午前3時から開催されるのには閉口したが、おかげで、発熱などの症状が出る1-3日前に体内のウイルス量が高値に達すること、排泄物に含まれるウイルスが感染源になるというには根拠が不十分であることを学んでいたため、いずれも当時のアドバイスに活かすことができた。
1)NHK東日本大震災プロジェクト著. 証言記録東日本大震災. NHK出版.2013年2月

【文責:高知県立大学看護学部 教授 木下真里】
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