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week99 2023年度を振り返る:性加害と法改正、浮き彫りになった社会構造の問題


 3月に入り寒さが和らぎ、2023年度も終わりに近づいています。この機会に一年間を振り返りたいと思います。私は臨床心理士として、日々心理的な問題を抱える方々への支援に携わっています。その立場から今年の大きな出来事を振り返りますと、特に二つの重要な出来事がありました。
 まず一つ目は、刑法の改正です。この改正により「不同意性交罪」などが新たに設けられ、罪に問える要件が明確になりました。被害者の心理的ケアに従事してきた臨床家にとって大きな進展でした。
 そしてもう一つは、日本で著名人による性加害が明るみになり、社会的に大きく取り上げられたことです。これは長期にわたって行われ、被害者の多くが児童、未成年であったこと、地位や権力を背景にしていたことが特徴で、社会に大きな衝撃を与えました。さらに、この事件を取り巻く関係者が、事実上、児童の重大な人権侵害を軽視し、黙認しつづけていたことも明るみになりました。
 この事件を通じて、日本社会で児童など弱い立場にある人々の人権がいかに軽視されてきたかということの実態があらためて浮き彫りになりました。被害者が声を上げても無視され、ときには非難される社会構造的な問題が存在し、これが事件が長期にわたって問題視されなかった背景にあると考えられます。
 性加害の問題は個別の事件としてだけでなく、法制度や社会制度の問題としてとらえる必要があります。弱い立場にある人々の人権を守るためには、司法制度の整備だけでなく、社会全体の意識改革が不可欠です。被害を受けやすい人々の人権が広く擁護され、加害行為が起きた場合には被害者を支えケアする仕組みを構築することが必要です。臨床心理学的なカウンセリングは、こうした人権擁護の基盤を前提にして成り立つものです。
 2023年度は、日本の被害者の人権にとって節目となる重要な年でした。私は臨床実務家として、この時代の大きな変化に立ち会えたことに感慨を覚え、実務を通じて社会に貢献する責務をいっそう自覚するようになりました。

【文責:神谷栄治 中京大学心理学部 教授】
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