week96 別れの季節に―『トイ・ストーリー3』の名セリフ
TEEP基本コース長の川本です。このコースでは、受講生が大学の模擬授業を行う機会もあります。そのときに必ずしているアドバイスは、「タイムリーであれ」ということです。授業に最新の情報を取り入れるのはもちろん、そのときどきにあった話題をすることが、学生の関心を引く上でとても大切です。
私自身は大学で映画や英語について教えています。いまは2月で、そろそろ別れの季節。このタイミングにふさわしい映画と英語のミニ講義を、ここでしてみましょう。
『トイ・ストーリー3』という涙なしには見られないアニメーション映画があります。映画の終盤、アンディという青年が母と別れるシーンがあります(アンディはこれから大学生になります。アメリカでは大学に行くときに親元を離れるのが一般的です)。
そのシーンのセリフなのですが、日本語吹替は原文と少し意味がずれています。母はアンディに「ずっと一緒にいられたらいいのに(I wish I could always be with you.)」と言います。これに対して、アンディは吹替では「そうだね、ママ」と答えます。これだと単に母の言ったことに賛同しているだけに見えます。しかし、原文は“You will be, Mom.”です。省略部分を補えば、“You will always be with me, Mom.”となります。つまり、ここでアンディは「ママはずっと僕と一緒だよ」と言っているのです(母のセリフと違って、反事実をあらわす仮定法は使われていません)。
物理的に離れたとしても、心はつねに一緒だよ。アンディが母に伝えているのは、こういうメッセージなのです。「たとえ離れ離れになっても、その関係の尊さや輝きが損なわれることはない」と脚本のマイケル・アーントは述べています(チャールズ・ソロモン『The art of トイ・ストーリー3』那波かおり訳、徳間書店、2010年、29ページ)。実は“be with somebody”のほかに、“be there for somebody”や“be together”といった表現が『トイ・ストーリー3』にはくりかえし登場します。そして、それが物語全体を読み解くカギになっています。映画のエンディングの展開にも大きく関係するのですが、ネタバレを避けるため、それは記さずにおきましょう。
――という話を別れの季節にすると、映画を英語で味わうことの醍醐味が伝わるかもしれません。
それはさておき、別れの季節の後には、出会いの季節が来ます。来年度もTEEPの新たな受講生との出会いがあります。来年度はどんな模擬授業を聞くことができるのか、楽しみにしています。
【文責:川本徹 名古屋市立大学大学院人間文化研究科 准教授】
私自身は大学で映画や英語について教えています。いまは2月で、そろそろ別れの季節。このタイミングにふさわしい映画と英語のミニ講義を、ここでしてみましょう。
『トイ・ストーリー3』という涙なしには見られないアニメーション映画があります。映画の終盤、アンディという青年が母と別れるシーンがあります(アンディはこれから大学生になります。アメリカでは大学に行くときに親元を離れるのが一般的です)。
そのシーンのセリフなのですが、日本語吹替は原文と少し意味がずれています。母はアンディに「ずっと一緒にいられたらいいのに(I wish I could always be with you.)」と言います。これに対して、アンディは吹替では「そうだね、ママ」と答えます。これだと単に母の言ったことに賛同しているだけに見えます。しかし、原文は“You will be, Mom.”です。省略部分を補えば、“You will always be with me, Mom.”となります。つまり、ここでアンディは「ママはずっと僕と一緒だよ」と言っているのです(母のセリフと違って、反事実をあらわす仮定法は使われていません)。
物理的に離れたとしても、心はつねに一緒だよ。アンディが母に伝えているのは、こういうメッセージなのです。「たとえ離れ離れになっても、その関係の尊さや輝きが損なわれることはない」と脚本のマイケル・アーントは述べています(チャールズ・ソロモン『The art of トイ・ストーリー3』那波かおり訳、徳間書店、2010年、29ページ)。実は“be with somebody”のほかに、“be there for somebody”や“be together”といった表現が『トイ・ストーリー3』にはくりかえし登場します。そして、それが物語全体を読み解くカギになっています。映画のエンディングの展開にも大きく関係するのですが、ネタバレを避けるため、それは記さずにおきましょう。
――という話を別れの季節にすると、映画を英語で味わうことの醍醐味が伝わるかもしれません。
それはさておき、別れの季節の後には、出会いの季節が来ます。来年度もTEEPの新たな受講生との出会いがあります。来年度はどんな模擬授業を聞くことができるのか、楽しみにしています。
【文責:川本徹 名古屋市立大学大学院人間文化研究科 准教授】