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ホーム >  コラム >  week91 被害者の声、受刑者へ届け―犯罪被害支援の新たな一歩

week91 被害者の声、受刑者へ届け―犯罪被害支援の新たな一歩


 一ヶ月前のことになりますが11月25日から12月1日まで「犯罪被害者週間」でした。この週間では、犯罪被害者のおかれている状況について、国民の理解を深めるための啓発活動が行われました。この週間がこの時期に設定されているのは、2004年12月1日に「犯罪被害者基本法」が成立したことに由来します。
 犯罪被害に関連して2023年12月から、新しい取り組みがスタートしています。それは「刑の執行段階における被害者等心情聴取・伝達制度」です。この制度は、犯罪被害者や遺族の気持ちを、刑務所や少年院にいる加害者に伝え、更生を促進する仕組みです。犯罪被害者団体は法務省に対して要望書を提出し、被害者の心の負担への配慮や、制度の正しい使い方に向けた啓発を求めています。
 この制度は2022年6月に刑法が一部改正されたことを受けてスタートしました。被害者が自分の気持ちを加害者に伝えたい場合は、研修を受けた刑務所や少年院の職員が、対面で被害者等の気持ちを聞き取り、それを書面にまとめます。この書面が刑務所・少年院の職員によって加害者に読み聞かせられ、その後、加害者の処遇や教育に役立てられます。希望する被害者には、読み聞かせた際の加害者の反応や発言も報告されます。これまでの仕組みでは保護観察中の加害者に対しては、被害者の気持ちを伝えることができましたが、この新しい制度により、受刑者や少年院に在院中の少年たちも対象となりました。被害者と加害者が対話することで、更生の一助となることが期待されます。
 一方で、被害者団体が危惧しているように、この伝達によって被害者の方が精神的に過重な負担を受けてしまう可能性も予測されます。このような事例を蓄積し、被害者の回復や加害者の更生につながるようにこの制度は検討されていくことが期待されます。今後、実務に密接に関連した研究が進むことが期待されます。

【文責:神谷栄治 中京大学心理学部 教授】
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