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week64 人から人に伝える技


【四万十川に浮かぶ川船】この川に暮らす人々は、ユタカな川の恵みを享受し、川のユタカさを守る技を伝えてきた。撮影:高知県立大学 清原泰治先生

 1983年に「NHK特集 土佐・四万十川〜清流と魚と人と〜」が放送されてから、四万十川は「日本最後の清流」と呼ばれるようになったと聞いています。「清流」とほめてもらえる川が失われていく中で、四万十川の「清流」は残りました。理由は簡単です。流域に暮らす人が少なかったからです。不便なところには大きな工場はできず、利用価値がなければダムは造られません。昔ながらの暮らしぶりと過疎が、清流を守ってきました。
 しかし、その四万十川に向けて近年、「最後の清流の最期」とか、「もう最後の清流と呼ぶのはやめよう」といった、厳しい言葉が浴びせられるようになりました。「清流」が失われつつある理由はいくつもあるらしいのですが、その一つが森林伐採のやり方です。
 「皆伐」で“ハゲ山”にされる山が増えています。その理由もいくつかあるらしいのですが、ある歴史研究者の話では、以前からあった伐採の技術を受け継ぐ職人がいなくなり、山を守りながら木を切り出すことができなくなったというのです。以前はワイヤを張って谷を飛ばして材木を搬出していたのが、その技が伝承できなくなって、大きな林道を作ってトラックで出さざるを得なくなったそうです。その結果、「皆伐」がなされ、雨が降ると茶色の濁流となって大量の土砂が川に流れ込む。川底にたまった土は、水生生物の住み処を奪い、特産のスジアオノリは姿を消しました。
 四万十川流域は人が減っています。以前は人が少なければ、清流は保たれた。でも皮肉なことに、人口減少が進むことで、自然を保つことができなくなっているのです。
 ユタカな美しい川には、専業の川漁師がいました。しかし、今はもう、川だけでは食べていけなくなっています。ここでもまた、伝統の技が消えようとしています。四万十川は、川も山も、「日本最後の清流の最期」の危機に瀕しています。
 教科書に書いてあることや、インターネットの映像だけでは伝わらない、人から人に伝えるしかない大切なコトがあるのではないでしょうか。

【文責:清原泰治 高知県立大学地域教育研究センター長 教授】
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