week48 小児期の逆境体験が健康におよぼす影響
最近、心理学や心身医学では、小児期の逆境体験に関する研究が注目を浴びています。これらの研究は、ACEs 研究(Adverse Childhood Experiences Study :逆境的小児期体験研究)として知られ、子ども時代の生活上のストレスフルな出来事が、成人期の身体的、精神的健康にどのように影響するかを研究するものです。
ACEs研究は、1990年代にアメリカの臨床医であるフェリッティらによって始められました。フェリッティは、自身が行っていた肥満治療プログラムに参加した患者に、性的被害、家庭内暴力、家族のアルコール依存症などの逆境体験を持つ人が多いことに気づきました。フェリッティは、このような逆境体験が、肥満や健康上の問題につながっている可能性があると考え、研究を開始したのです。
ACEs研究は、1990年代にアメリカの臨床医であるフェリッティらによって始められました。フェリッティは、自身が行っていた肥満治療プログラムに参加した患者に、性的被害、家庭内暴力、家族のアルコール依存症などの逆境体験を持つ人が多いことに気づきました。フェリッティは、このような逆境体験が、肥満や健康上の問題につながっている可能性があると考え、研究を開始したのです。
約一万人もの人を対象にしたACEs研究の結果、逆境体験が心身の健康に深刻な影響を与えることが明らかになりました。研究に参加した人たちの中で、逆境体験が多い人は、そうでない人に比べて、うつ病や不安障害、糖尿病、心臓病、がん、自殺などの病気にかかるリスクが高いことが示されました。またその後の研究では、逆境体験を多く経験した人は、学業上の達成が低く、就職などの社会的達成にも影響を受けることもわかりました。
ACEs研究の重要な点の1つは、幼少期の逆境体験が、かなりの時を経て、身体的、精神的健康に影響を与えているということです。また、逆境体験がどのようなものであれ、その影響は累積的であり、複数の逆境体験を経験した人ほど健康リスクが高くなることもわかってきました。なお一方で、逆境体験の影響は必ずしも避けられないわけではないこともわかってきました。研究によれば、支援的な環境や人々の存在が、子どもたちが逆境に立ち向かう力を強化し、健康的な成長を促進することができると示されています。
ACEs研究の重要な点の1つは、幼少期の逆境体験が、かなりの時を経て、身体的、精神的健康に影響を与えているということです。また、逆境体験がどのようなものであれ、その影響は累積的であり、複数の逆境体験を経験した人ほど健康リスクが高くなることもわかってきました。なお一方で、逆境体験の影響は必ずしも避けられないわけではないこともわかってきました。研究によれば、支援的な環境や人々の存在が、子どもたちが逆境に立ち向かう力を強化し、健康的な成長を促進することができると示されています。
一連のACEs研究は特に予防要因に関して今もなお発展中です。ここで指摘しておきたいのは、こうした重要な研究の流れの端緒となったのは、専門的研究者ではなく、一般臨床医であった一人の医師の研究であるということです。肥満外来での臨床の営為の中から気づきを得て、それを発表しところ、今やそれが研究の大きな潮流となり、心理学や心身医学に多大な貢献をするまでになっています。実務者の実務経験には重要な意味があることがここであらためて確認されるのではないでしょうか。
その一方で臨床実務経験からの気づきを、科学的知見として、研究者間で広く共有し検証したり、社会に還元したりしていくには、科学的なアカデミックな方法論が必要となることが多いものです。実はフェリッティ医師も、研究の初期段階で、疫学研究の専門家であったアンダ氏の協力を得て、研究をより説得力ある形にすることができたということがありました。
実務家教員養成プログラムを、時代に即した科学的な方法論をリスキリングする機会として、活用することは可能です。当コースの教員スタッフは、実務経験から得たアイデアを研究につなげ、それを研究として発展させる機会を提供したいと考えています。
【文責:神谷栄治(中京大学心理学部 教授)】
その一方で臨床実務経験からの気づきを、科学的知見として、研究者間で広く共有し検証したり、社会に還元したりしていくには、科学的なアカデミックな方法論が必要となることが多いものです。実はフェリッティ医師も、研究の初期段階で、疫学研究の専門家であったアンダ氏の協力を得て、研究をより説得力ある形にすることができたということがありました。
実務家教員養成プログラムを、時代に即した科学的な方法論をリスキリングする機会として、活用することは可能です。当コースの教員スタッフは、実務経験から得たアイデアを研究につなげ、それを研究として発展させる機会を提供したいと考えています。
【文責:神谷栄治(中京大学心理学部 教授)】