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week20 登山中のケガや病気と山岳診療所


奥穂高岳(3190m・岐阜県最高峰)と奥穂高岳診療所が併設されている穂高岳山荘(標高3000m地点)

 登山は、コロナ禍で3密を回避できるレジャーとして人気が高くなっていますが、連日のように山岳遭難のニュースが報じられています。長時間にわたり高所を歩く登山では、ケガだけでなく、ときに健康に影響を及ぼすこともあります。頭痛や食欲不振、吐き気、嘔吐、めまい、睡眠障害などを伴う急性高山病は通常2500m以上の高地で発症しますが、それ以下の高度でも類似の症状を示すことがあります。多くは高地環境に順応して軽快しますが、一部の方は、高地脳浮腫、高地肺水腫といった致死的な病態に進展することもあります。
 急性高山病の発症には個人差があり、体重が重い人、若い人、運動不足、喫煙者、アルコール摂取、睡眠薬の使用などが危険因子と報告されています。また、2800mを超える高度に1日で登高する場合、高山病のリスクは高くなります。ゆっくり登る、アルコールは控えめにする、睡眠薬は使わない、など高山病のリスクを減らすことが大切です。山で体調が悪くなった時は、近くに山岳診療所があれば、相談してみるのもよいでしょう。

岐阜大学医学部奥穂高岳診療所(標高3000m)

 北アルプス全域と北岳、白山、富士山には山岳診療所が設置されています。例えば、北アルプスの奥穂高岳には1985年に開設された「岐阜大学医学部奥穂高岳夏山診療所」 が穂高岳山荘に併設されており、ボランティア医療スタッフおよび医療系学生の活動により運営されています。穂高連峰を訪れた人々が急性の疾病及び外傷で医療を受ける必要が生じた際に、診療所またはその近隣にて出来得る応急的な処置を施し、また不安を軽減することを目的としています。その目的を果たすために診療所スタッフは、人道的な配慮を常におこないつつ、限られた医療資源を利用して活動しています。岐阜薬科大学の実務家教員も、岐阜大学の医学科や看護学科の実務家教員や医学生、看護学生、薬学生らとともに、診療活動を行っています。
 登山は、都会の喧騒から離れ、五感で自然を感じ、壮大な景色や季節の変化を楽しむことができる素晴らしい文化的活動ですが、高山病以外にも、熱中症や脱水、虫刺され、転倒や滑落によるケガなどリスクと隣り合わせであることも忘れてはなりません。普段から薬を飲んでいる方は、お薬手帳のコピーなども携帯しましょう。
 なお、コロナ禍で山岳診療所が開設されていない場合もあるので注意が必要です。奥穂高岳診療所も、今年度は3年ぶりに開設予定でしたが、昨今の感染症の急増により、急慮開設を見送ることとなりました。個々で十分な準備をしてリスクを減らし登山を楽しみましょう。

【文責:林 秀樹(岐阜薬科大学 地域医療実践薬学研究室 教授)】

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