グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ


ホーム >  コラム >  week15 『トイ・ストーリー』の成功の秘密:映画に学ぶ思考のヒント

week15 『トイ・ストーリー』の成功の秘密:映画に学ぶ思考のヒント


 ミュージカル映画の名作『雨に唄えば』(1952)。タイトルを見て、思わず主題歌「雨に唄えば」を口ずさみたくなった方も多いでしょう。ところで、この歌、映画『雨に唄えば』のために作曲されたものではありません。1920年代に作られた曲を再利用したのです。
 古いものを再利用しつつ、新しいものを作る。あるいは、洗練されたものの中に、伝統を保持する。こうした「保存としての革新」がミュージカル映画の特色だとする研究があります。
 もっとも、これはミュージカル映画だけに見られる現象ではありません。2025年に公開30周年を迎える大ヒット映画『トイ・ストーリー』(1995)の成功の秘密も、新旧の巧みな融合にあります。
 『トイ・ストーリー』の特徴のひとつは、それまでのディズニー映画にはなかった、エッジの効いた大人向けのギャグにあります。たとえば、映画の終盤、おもちゃが頭部をぐるりと回転させて人間を怖がらせます。これはR指定のホラー映画『エクソシスト』(1973)の引用です。だからと言って、おもちゃによる手に汗握る冒険が、子どもの観客を置き去りにすることはありません。『ピノキオ』(1940)につらなる伝統が生かされています。
 また、『トイ・ストーリー』は公開当時最先端の――多くの観客にとって見慣れない――映画でした。世界初の長編コンピュータ・アニメーションだったのです。だからこそ、キャラクターはある程度観客の見慣れたもの、伝統に根ざしたものである必要がありました。名脇役であるポテトヘッドやスリンキー・ドッグは、アメリカでは古くから売られている実在のおもちゃ、懐かしいおもちゃです。それを最新のコンピュータ・アニメーションで再利用したのです。
 ここまで論じれば、本作がそもそも古風な製品(ウッディ)と最先端の製品(バズ)の対立と和解を描いた映画であることにもお気づきのはずです。

 今回は詳述できませんが、21世紀のディズニー映画『ミッキーのミニー救出大作戦』(2013)も、ミッキーという伝統的なキャラクターと最新の映像技術を融合させた興味深い作品です。この短編映画と同時上映されたのが、プリンセス映画の伝統を踏まえつつ、それを刷新した『アナと雪の女王』(2013)であるのは偶然ではありません。
 真に革新的なものは、しばしば伝統との対話から生まれます。新たな教育の創造をめざすTEEPにおいても、ヒントになるかもしれません。


【文責:川本 徹(名古屋市立大学大学院人間文化研究科 准教授】
Page Top