week2 「デザイン経営」を題材に、第1回『TEEPコミュニティ交流会』を開催しました!
TEEPコミュニティ交流会の価値
TEEPでは、進化型実務家教員でありつづけるための、または、それに向けての継続的なキャリア開発を重視しています。TEEPコミュニティ交流会は、同窓会的な懇親会ではなく、リカレントとリスキリングという学び直しの場です。この場は、修了生にとり、学修とキャリア開発のポートフォリオ(注1)である「実務領域診断カルテ」を更新する機会なのです。
第1回テーマ「デザイン経営」を設定した背景
「あいち商店街活性化プラン2025」(注2)策定委員会で同席した名古屋学芸大学メディア造形学部の冨安由紀子先生と私(ともに実務家教員)の会話に端を発しています。例えば、このような感じです。
---「デザイン経営」(注3)って多義的だよね。その本質とは何だろう。お互いにデザインという言葉を使っている。
「デザイン・プロデュース(冨安)」(注4)、「未来デザイン考程(鵜飼)」(注5)。
モノづくりのデザイン概念にとどまらず、アイデアや行動のプロセスを創造的に考え、行動するところまで含んで使っているが、果たして、デザイン経営と同じなのだろうか?違うとするなら、何が、どのように違うのだろう?デザイン経営を考える中から、自分たちのデザイン概念の特徴も際立たせたいし、アップデートしていきたいね。---
そこで、冨安先生の大学の先輩で、トヨタ自動車からヤマハ発動機に移り、デザインを経営のコアと位置づけ「プロダクト・イン」の取り組みを推進してきたヤマハ発動機顧問/前クリエイティブ本部長の長屋明浩さんに協力いただこうということになった(注6)。
活発な実践に根差した意見交換で、理論や既成概念を問い直す機会に!
ヤマハ発動機は、商品が短期間でコモディティ化する世界において、同社の商品を買う「意味」をお客様に届ける必要性を強く感じ、デザイン経営に取り組んできています。2012年のデザイン本部発足を契機に、コンセプト・デザインの全社的な統一化への取り組みは、2021年4月に知的財産制度を有効活用する「デザイン経営企業」に贈られる知財功労賞「特許庁長官表彰」として結実しました。この活動をリードしてきたのが長屋さんであり、講演からキー概念を抽出すると、つぎのような内容を指摘できるでしょう。
「次世代の豊かさには『意味』が鍵」「意味のデザインから、仕事の流儀を変容させる(前のめり・束ねる・やりきる)」「コアバリューとして暗黙知を形式知化し、コアバリューをまとめてデザインで多くの商材をつなぐ」「経営会議にデザイン責任者が参加するとともに、デザイナーが事業戦略構築へ参画し、お客様に届ける価値の『意味』を明確化するプロセスをサポート」「多様性と一貫性を両立するアプローチ」
また、TEEP修了生、長屋さん、冨安先生のディスカッション(ファシリテーター:筆者)から、「実践の変化は、理論に先行する」状況が再確認でき、実務家教員が「実務知」と「学術知」を往還する意義がより明確になりました。例えば、デザイン経営は、デザイン思考のみで成り立つわけではなく、アート思考が欠かせません。ディスカッションでは、「違いは、すでに定型化されている『デザイン思考』という課題解決フレームワークから導かれるのではない」「存在する意味を創る『アート思考』が欠かせない」「デザイン経営では、デザイン思考とアート思考は同居する」との趣旨の意見交換がなされました。
実践を相対化できるもう一つのコミュニティ
「TEEPコミュニティ交流会」のカタチが見えた第1回でした。まず、自らの経験に基づく「実務研究」という方法を深耕する意義がはっきりしました。ここでいう実務研究とは、実務家が「研究対象となる事業や取り組み等を現実的・実践的に実行し、達成し、または解決を図る手法や方策等を主に実務的視点から」研究することを指します(注7)。
次に、自分の経験を相対化する機会を持つことの重要性が確認できました。今回は、実務家の日常業務から少し距離のある、しかし、次代を切り拓く社会的イシューをテーマに据え、自分の経験を振り返ることをしました。加えて、異業種、多職種にわたる参加者が共通のテーマでディスカッションし、共通点と相違点を探りました。TEEPコミュニティ交流会は、職場や研究学会とは別の「実践を相対化できるコミュニティ」として確かな一歩を踏み出したと断言できます。
参画いただきました皆様に、衷心より感謝申し上げます。
注:
(注1) TEEPでは、ポートフォリオという用語を、「これまでの仕事経験の内容とTEEPでの学びの変遷を1つにまとめた成果集」の意味で用いています。基本コース1期生の中から本年4月より実務家教員が誕生しました。その1期生は、大学へのエントリーシート作成時に、実務領域診断カルテの30の質問へ回答する準備作業、教育指導論で行った15回のシラバス作成と模擬講義等の記録が効果的であったと振返っています。なお、教育評価の専門用語としてのポートフォリオの解説は、熊本大学大学院のWEBサイトを確認ください。
(注2) あいち商店街活性化プラン2025~『暮らし』の、『まち』の、あったらいいな 」 を実現する商店街への変革を目指して~
私見ですが、商店街活性化も過去発想ではなく、未来発想で見えてくる「創る問題(いまは意識されていない問題)」を設定することが欠かせません。ここには未来を「デザイン」するという行為が含まれています。
(注3) デザイン経営の考え方は、特許庁デザイン経営プロジェクトの資料で概要が理解できます。
(注4) 名古屋学芸大学メディア造形学部デザイン学会内にデザインプロデュース・コースが2016年に立ち上がり、その際、冨安先生は、デザインプロデューサーを次のように示している。1)新しい体験価値を見える形で社会に提供する人、2)デザイン思考をベースに人間中心の企画開発をする人、3)創造的な問題解決策を生み出し実現する人、4)人と人、人とモノ、人とコトを結びつける人。
(注5) 未来デザイン考程は、博進堂により生み出された問題解決のための思考のプロセスと方法論です。筆者は、その中核となる未来発想の思考プロセスとアイデア発想法の2種類をアントレプレナーシップ教育に適用しています。
(注6) 長屋明浩氏の活動の特徴は、月刊『事業構想』(2017年10月号)で確認できます。
(注7) 地域活性学会の実務研究論文の定義を応用。詳細は、(https://www.chiiki-kassei.com/pb/cont/sale/244)で確認ください。
【文責:鵜飼宏成 (TEEP実施委員会 委員長/名古屋市立大学大学院経済学研究科 教授)】
TEEPでは、進化型実務家教員でありつづけるための、または、それに向けての継続的なキャリア開発を重視しています。TEEPコミュニティ交流会は、同窓会的な懇親会ではなく、リカレントとリスキリングという学び直しの場です。この場は、修了生にとり、学修とキャリア開発のポートフォリオ(注1)である「実務領域診断カルテ」を更新する機会なのです。
第1回テーマ「デザイン経営」を設定した背景
「あいち商店街活性化プラン2025」(注2)策定委員会で同席した名古屋学芸大学メディア造形学部の冨安由紀子先生と私(ともに実務家教員)の会話に端を発しています。例えば、このような感じです。
---「デザイン経営」(注3)って多義的だよね。その本質とは何だろう。お互いにデザインという言葉を使っている。
「デザイン・プロデュース(冨安)」(注4)、「未来デザイン考程(鵜飼)」(注5)。
モノづくりのデザイン概念にとどまらず、アイデアや行動のプロセスを創造的に考え、行動するところまで含んで使っているが、果たして、デザイン経営と同じなのだろうか?違うとするなら、何が、どのように違うのだろう?デザイン経営を考える中から、自分たちのデザイン概念の特徴も際立たせたいし、アップデートしていきたいね。---
そこで、冨安先生の大学の先輩で、トヨタ自動車からヤマハ発動機に移り、デザインを経営のコアと位置づけ「プロダクト・イン」の取り組みを推進してきたヤマハ発動機顧問/前クリエイティブ本部長の長屋明浩さんに協力いただこうということになった(注6)。
活発な実践に根差した意見交換で、理論や既成概念を問い直す機会に!
ヤマハ発動機は、商品が短期間でコモディティ化する世界において、同社の商品を買う「意味」をお客様に届ける必要性を強く感じ、デザイン経営に取り組んできています。2012年のデザイン本部発足を契機に、コンセプト・デザインの全社的な統一化への取り組みは、2021年4月に知的財産制度を有効活用する「デザイン経営企業」に贈られる知財功労賞「特許庁長官表彰」として結実しました。この活動をリードしてきたのが長屋さんであり、講演からキー概念を抽出すると、つぎのような内容を指摘できるでしょう。
「次世代の豊かさには『意味』が鍵」「意味のデザインから、仕事の流儀を変容させる(前のめり・束ねる・やりきる)」「コアバリューとして暗黙知を形式知化し、コアバリューをまとめてデザインで多くの商材をつなぐ」「経営会議にデザイン責任者が参加するとともに、デザイナーが事業戦略構築へ参画し、お客様に届ける価値の『意味』を明確化するプロセスをサポート」「多様性と一貫性を両立するアプローチ」
また、TEEP修了生、長屋さん、冨安先生のディスカッション(ファシリテーター:筆者)から、「実践の変化は、理論に先行する」状況が再確認でき、実務家教員が「実務知」と「学術知」を往還する意義がより明確になりました。例えば、デザイン経営は、デザイン思考のみで成り立つわけではなく、アート思考が欠かせません。ディスカッションでは、「違いは、すでに定型化されている『デザイン思考』という課題解決フレームワークから導かれるのではない」「存在する意味を創る『アート思考』が欠かせない」「デザイン経営では、デザイン思考とアート思考は同居する」との趣旨の意見交換がなされました。
実践を相対化できるもう一つのコミュニティ
「TEEPコミュニティ交流会」のカタチが見えた第1回でした。まず、自らの経験に基づく「実務研究」という方法を深耕する意義がはっきりしました。ここでいう実務研究とは、実務家が「研究対象となる事業や取り組み等を現実的・実践的に実行し、達成し、または解決を図る手法や方策等を主に実務的視点から」研究することを指します(注7)。
次に、自分の経験を相対化する機会を持つことの重要性が確認できました。今回は、実務家の日常業務から少し距離のある、しかし、次代を切り拓く社会的イシューをテーマに据え、自分の経験を振り返ることをしました。加えて、異業種、多職種にわたる参加者が共通のテーマでディスカッションし、共通点と相違点を探りました。TEEPコミュニティ交流会は、職場や研究学会とは別の「実践を相対化できるコミュニティ」として確かな一歩を踏み出したと断言できます。
参画いただきました皆様に、衷心より感謝申し上げます。
注:
(注1) TEEPでは、ポートフォリオという用語を、「これまでの仕事経験の内容とTEEPでの学びの変遷を1つにまとめた成果集」の意味で用いています。基本コース1期生の中から本年4月より実務家教員が誕生しました。その1期生は、大学へのエントリーシート作成時に、実務領域診断カルテの30の質問へ回答する準備作業、教育指導論で行った15回のシラバス作成と模擬講義等の記録が効果的であったと振返っています。なお、教育評価の専門用語としてのポートフォリオの解説は、熊本大学大学院のWEBサイトを確認ください。
(注2) あいち商店街活性化プラン2025~『暮らし』の、『まち』の、あったらいいな 」 を実現する商店街への変革を目指して~
私見ですが、商店街活性化も過去発想ではなく、未来発想で見えてくる「創る問題(いまは意識されていない問題)」を設定することが欠かせません。ここには未来を「デザイン」するという行為が含まれています。
(注3) デザイン経営の考え方は、特許庁デザイン経営プロジェクトの資料で概要が理解できます。
(注4) 名古屋学芸大学メディア造形学部デザイン学会内にデザインプロデュース・コースが2016年に立ち上がり、その際、冨安先生は、デザインプロデューサーを次のように示している。1)新しい体験価値を見える形で社会に提供する人、2)デザイン思考をベースに人間中心の企画開発をする人、3)創造的な問題解決策を生み出し実現する人、4)人と人、人とモノ、人とコトを結びつける人。
(注5) 未来デザイン考程は、博進堂により生み出された問題解決のための思考のプロセスと方法論です。筆者は、その中核となる未来発想の思考プロセスとアイデア発想法の2種類をアントレプレナーシップ教育に適用しています。
(注6) 長屋明浩氏の活動の特徴は、月刊『事業構想』(2017年10月号)で確認できます。
(注7) 地域活性学会の実務研究論文の定義を応用。詳細は、(https://www.chiiki-kassei.com/pb/cont/sale/244)で確認ください。
【文責:鵜飼宏成 (TEEP実施委員会 委員長/名古屋市立大学大学院経済学研究科 教授)】
長屋明浩氏
冨安由紀子先生