TEEP NEWS LETTER Vol.37
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室蘭工業大学大学院 修士課程の指導院生とのスナップ(2010年) あくまで論文なので査読はありますが、重要視される基準は「分析・考察を加えて、他の地域でも課題解決や目標実現に役立つ具体的な知識・ノウハウが含まれているかどうか」です。学術理論やモデルを使わなくても分析・考察できる場合は、無理に使う必要はありません。それよりも、実務家が今持っている実践知を言葉に表してもらいたい、という思いがあります。 ただし、実務ではその分野の常識や業界の常識、会社員としての常識を前提として考え、会話をしているため、説明や証拠を省略しがちです。そうすると、論理が飛躍したり、感覚的になってしまったりする部分が大きいです。誰でも分かるように、面倒とは思っても丁寧に書くことで論文のレベルを上げ、研究者としての実績を積むことも大事なので、実務研究論文の書き方の講座などではその点を強調しています。   大学では産学連携にも熱心に取り組まれましたが、学外の知恵を学内に持ち込んで教育するときに感じた課題はありますか。 室蘭工業大学では、私が学生たちに呼びかけて「PAN(Public Administration Network)」という社会貢献活動サークルを作りました。室蘭市内の小中学生の学習指導や、雪国なので雪かきに困っている人の手伝いをする「雪かきレンジャー」などが主な活動です。 雪かきレンジャーは学生が自分たちで考え、実際に困った人たちの前で「こういうことをしたい」とプレゼンして決まりました。学生にとってはやりがいや手応えがあり、地域の人たちにもすごく喜ばれました。人が喜んでくれる、社会に認められる経験は、意欲につながり、意欲は伝染し、だんだん広がっていきます。雪かきだけでなく、一人では買い物に行けない「買い物難民」の支援などにも発展しました。 最初はボランティアだったのですが、無償だとどうしても公平・不公平や継続性に問題が出るため、途中から1回1000円をもらう報酬制にしました。それも学生たちがどうすれば本質的な問題が解決するか、人間とはどういう生き物なのかなどを学ぶ良い機会になったと思います。教える側としても、座学の授業では教えられないものがありました。自分がやってみて、成功・失敗を経験することがとても効果的です。実行力がつくだけでなく、人にも共感できる、人の意見を聞くようになるなど社会人基礎力が身に付きます。   それは素晴らしい実践ですね。学生はたまたま4年間その大学にいますが、先生は学生たちが就職後に成長するまでを意識して4年間向き合っていたのでしょうか。 アメリカでは、学生が大学の教育で徹底的に鍛えられて、2年間でびっくりするほど人が変わります。アメリカの教育は、社会でちゃんと自立して生活できる力を子どもたちに与えること。そのために自分の頭で考えて、人前で発表することをトレーニングされます。 一方、日本は大学受験までが大変で、大学は休憩の期間のようになってしまいます。授業内容も社会で必要な知識を教えるのではなく、単に知識量と頭の回転の速さを鍛えるようなものばかりです。だから日本の学生は社会に対する関心が薄く、基本的な礼儀を知らないまま企業や役所に入ってしまうのです。入社会の「研究医」として本来あるべき姿を

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