TEEP NEWS LETTER Vol.25
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アリティは実務の中でこそ経験できるものです。臨床教員はみな大学外にもフィールドを持ち、教育と実践の両方を担っている方が多いように思います。これが教育実践活動にもいかされます。授業で自分の実践知である臨床経験を話すと、学生たちは目を輝かせて聞いてくれます。 また、知識や経験をアップデートし続けることは、大学教員にとって不可欠です。常に実践に半分軸足を置いておくことで、社会で何が問題になっているかを、身をもって経験できます。 私の場合は心の問題を扱いますが、クライアントと会うと、背景にある社会構造の問題が非常に大きく影響していると感じます。個の問題と社会の問題、両方を頭に入れておくことが必要です。それを学生にも伝え、臨床心理学やカウンセリングについてもっと広い視点を持ってもらいたい。学生の中には、私のフィールドに自ら参加し、フィールドを通して臨床の知を自ら経験していく人もいます。   現場で発生している事実や問題を探究し、問題解決につなげることが重要です。 私は現場でアスリートから多くを学びました。自ら考え、判断し、実行する。うまくいかなければ、また自ら考える。これができるのがトップアスリートです。また、コーチからもいろいろなことを学びました。まず教え過ぎない。選手が求めるときにのみ適切なアドバイスをする。選手のプロセスを重視し、選手自身に考えさせるよう仕向けるのがコーチの役目だということです。 これらを踏まえ、現在、学生にはゼミで現場実習に挑戦してもらっています。座学で学んだ知識を、応用力に変え実践力を身に付けることを目的に、トレーナーやスポーツコーチ、または保健体育の教員としての実習に取り組んでもらっています。   どの分野でもシミュレーションという概念が非常に重要ということ、そして、専門分野によって臨床の場のつくり方は違ってくるという実態が見えてきました。   私は大学、企業、学生と異なる属性の人に対して、実践でニーズに応えてきたという面が大きいです。企業での経験から得られた営業力、企画力、調整力といった能力をいかしてインターンシップやPBLの教育に携わってきました。そして教育指導の実践を研究にいかすことで、自分自身も成長するサイクルです。 実務家教員は実践に長けたベテランが多いのですが、私の特徴として、学生との接点や近い距離感をいかして、学生たちと同じ目線に立ち、寄り添いながら実践に携わらせることがポイントになります。 先ほど葛原先生が「教員がお膳立てをし過ぎてしまう」問題について話されました。この点はとても大事な視点だと思っています。インターンシップやPBLで教員が果たす役割は、学生に機会を与えつつ、学ぶ意欲に火をつけること。教員にはコーチ的な役割に加え、その学生に合った環境やプログラムを提供し、実践経験を積ませることや、モチベーションを向上させることが重要です。   実務家教員の研究力の特徴についても伺います。研究のあり方についてはどう考えられておられますか。   実務家教員の研究はやはり実務の改善のための研究です。実務の中での疑問を研究テーマにすることが特徴ではないでしょうか。   私も学生時代に指導教員から「研究テーマは日々の実践の中で見つかるもの」と言われました。実践の中で見つかったテーマはやはり実践的なものになりますし、だからこそ継続できると感じています。自分の場合はそれが貧困の問題でした。 また、実践の中で研究テーマを見つけたら、今度は研究の知見を実践のフィールドに戻す必要もあります。加えて、私は研究の結果に対する責任も同時に負う必要があると考えます。研究結果が誰の利益になるのかということです。結果が思いもよらないところで使われることもあり、特にマイノリティの方を対象とした研究の場合は、どういった使い方をされるのかを気にしながら世に出す必要があります。   私が前任校に着任したときには、学内に実験室や測定機器が全くありませんでした。そこで、スポーツ現場で取ったデータを活用するという方向に舵を切りました。トレーナー時代に取ったデータを活用して論文を書き、科研費の獲得につなげました。研究費をいただいて、ようやく学術教員の先生方と同じ現場の課題を研究テーマに笹野葛原葛原吉住今永鵜飼鵜飼

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