TEEP NEWS LETTER Vol.06
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   コロナの問題で、社会は急激に動きました。良い面としては、今まで「お上」の号令で変わってきたことの多い日本社会の中で、現場からいろいろな知恵が生まれてきたことです。在宅勤務やオンライン会議、飛沫対策などを通して、現場から世の中を変える力が生まれています。 今まで大学が社会に送り出してきたのは、学内で身につけた抽象的な知と、地域社会での調査や実習などのフィールドワークでの経験をいかにつなげるか、すなわち専門知の普遍化であったと思います。 これからは、大学にそれぞれの現場の経験知や実践知を持ち込んで、大学の得意とする普遍的な知と積極的に融合させなければなりません。 重要な役割を果たすのが実務家教員です。実務家教員は、現場で自らが生み出してきたものを、より普遍的な知にしていくこと、また社会を変えていく力になるのを実感できるはずです。 学生にとっては、単に将来の仕事に関する実務を学ぶだけでなく、社会の最先端で一人一人が社会を変えていくという自覚を持ち、実務家と共に課題解決できれば、確かな自信につながり、ポジティブな影響を受けることになるでしょう。 また、SDGsの発想はこれからの人たちに必須です。本来これは科学的な知見、普遍的な知識はもちろん、現場で寄り添うケアの精神など、人間としてさまざまな能力を持っていなければ考えられません。今、世間ではSDGsがビジネスチャンスになっていますが、実務家教員には人間の多様な能力や知識だけでなく、感性やモラルなどの面からもSDGsの意味を示す必要があります。   SDGsが目的化すると、うわべだけの「SDGsウオッシュ」になる可能性があります。総論としては「誰一人として取り残さない」という誰もが賛同する言葉を掲げているため、肯定的ですが、各論としてはどうでしょう。 気候変動に関わる諸問題は、若い世代にとっては「気候正義」とデモで掲げる身近なテーマとなっています。しかし、その危機感を本当の「自分ごと」にできなければ長続きしませんし、実際の社会経済構造が変わらなければ解決しません。 実務家のバッググラウンドは経済活動で、そこを根本的に問い直すことはチャレンジングなことだと思います。それを覚悟して共に歩んでいける伴走者になれるか、私たちも問われます。 今回のコロナによる行動変容についても同じことがいえます。確かに表面的な行動は変わるのかもしれませんが、本質的な部分まで変わるでしょうか。SDGsが私たちに求めているのは、まさに個々人の「生活様式」にまで踏み込むことといえます。TEEPという短期間のプログラムで、どこまで踏み込めるでしょう。   私が学んできた憲法学では、「憲法は大人になってから学ぶべきだ」といわれることがあります。 必ずしも、さまざまな人権問題を実感できないまま、何となく大学で憲法や人権を学んでいた人たちが多いのではないでしょうか。でも、本当の憲法学は、そこで終わるのではなくて、いざ社会に出て政治や人権などの問題に突き当たった時、また戻ってきて学ぶべきだというわけです。つまり、1回の学びではないよということです。 TEEPも同じで、半年や1年で本当のソーシャル・デザインが分かるとは思えません。その後にいろいろなことにぶつかって、もう1回、勉強し直さなきゃと戻ってきてくれればいい。大事なのはその最初のきっかけをつくることと、大学として「学び直し」を受け入れる態勢ではないでしょうか。   大学は今まで通過機関だったけれど、今おっしゃったのは、絶えず帰ってきてはまた出掛けていく「ベースキャンプ」のようなイメージ。本来、生涯学習もそういうものですよね。裏面へ続く「学び直し」のきっかけづくりに小林伊藤曽我ひ まつ伊藤伊藤恭彦 教授

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