最近新聞などでよく話題になっていますが、今、日本の社会では家庭で虐待的な扱いをうけている児童の数が増えています。これに対して、社会的支援の仕組みや方法をより改善し、より多くの児童が(そしてその親が)適切に生活サポートを受けられるようにすることが社会的課題になっています。また、現在の日本では、女性が不当な扱いを受けたり、精神的・身体的・性的な加害(ハラスメント)を受けたりしている実態があるのに、それに対してサポート体制が不十分であるという実態も指摘されています。さらには、身体的・精神的・発達的ななんらかのハンディキャップのある方や社会的にマイノリティの方も、適切な配慮や便宜が受けられず、実質的に差別的扱いを受けているのに、十分な支援が提供されていない、またそうした仕組みが不十分であるという実態があると思われます。 このような社会の現状のなかで、こうした方々の心理的支援の業務にたずさわっている方は実はかなり多いと思われます。いくつか例を挙げてみます。たとえば公務員として、児童相談所で、児童の支援にあたっている方がおられます。また非行少年のほとんどが実は家庭での不適切な養育の被害者という側面を持っていますが、こうした非行少年の処遇の判断に関わっているのは家庭裁判所調査官です。虐待を受けた児童は、児童養護施設に生活の場を移すケースもありますが、そこで、生活を支援する職員の方もおられます。また15歳以上で事情があって家庭で生活が送れない若者の生活支援の場として、自立援助ホームがありますが、ここで若者の生活を支援しているNPO等のスタッフの方がおられます。さらにまた他にも女性支援施設や犯罪被害者支援センター等で、スタッフとして日々支援にあたっておられる方もいらっしゃいます。こうした方々は、日々現場で、さまざまな苦労を抱えながら支援の経験を積み重ね、そのノウハウを体得しているわけです。 視点を変えてみますと、私は心理学部の教員ですが、多くの若者が対人援助職に就きたいという思いを抱いて心理学部に入学してきます。学生は人の役に立ちたいという志を強く持ちながらも、実際に人を支援することの困難さについては経験的理解が当然まだありません。私が、授業のなかで支援の実例を話すと、理論的抽象的なトピックとは違ってかなり興味を持って学生が聞き入るということがよくあります。 対人援助職に就きたいと思っている学生が、より現場体験に基づいた学びを求めていることは、心理学部の教員として強く感じています。そうした現場に密着した学びを提供できるのは、先ほど挙げたような組織・機関で支援の経験を積んでこられた方々だと思います。経験に基づいた知を、きちんと次世代に伝えていくことは、実務家教員の使命といえるでしょう。対人援助職として働いてこられた方が、その経験を伝承する機会がアカデミズムの場ではこれまで限られていたきらいがありましたが、実務家教員養成プログラムがその突破口となる可能性を期待し、それを支えていきたいと考えています。現場で経験を重ね、支援のノウハウを体得経験に基づく知を次世代に伝える神谷栄治中京大学心理学部 教授心理支援・カウンセリング分野における実務家教員について発行者 TEEPコンソーシアム実施委員会 事務局 名古屋市立大学教務企画室内 〒467-8501 名古屋市瑞穂区瑞穂町字山の畑1発行日 2020年4月1日 連絡先 E-mail : teep_oce@sec.nagoya-cu.ac.jp進化型実務家教員養成プログラム2vol.News Letter名古屋市立大学 岐阜薬科大学 高知県立大学 中京大学進化型実務家教員養成プログラムWebサイトhttps://teep-consortium.jp/
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